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はじめに
β遮断薬は臨床開発から半世紀が過ぎ,高血圧から虚血性心疾患,頻脈性不整脈,心不全まで広く臨床使用されている。 しかし,最近の大規模介入試験では,β遮断薬は降圧薬としての心血管イベント抑制効果が他の降圧薬より劣るとする報告がみられる。 β遮断薬の降圧薬としての評価に関して,英国立医療技術評価機構(NICE)/英国高血圧学会(BHS)ガイドライン(2006) 1)National Collaborating Centre for Chronic Conditions: Hypertension: management of hypertension in adults in primary care: partial update. London: Royal College of Physicians;2006. p.1−94.1)。 では,β遮断薬を初期治療薬のみならず二次薬, 三次薬よりも除外するとした。しかし対照的に,2007年に発表された欧州高血圧学会・欧州心臓病学会の高血圧管理ガイドライン(2007 ESH−ESC) 2)2) Mancia G, De Baker G, Dominiczak A, Cifkova R, Fagard R, Germano G, et al. Guidelines for the management of arterial hypertension. The Task Force for the Management of Arterial Hypertension of the European Society of Hypertension (ESH) and of the European Society of Cardiology (ESC). J Hypertens 2007;25:1105−87., カナダ高血圧ガイドライン(2007) 3)3) Khan NA, Hemmelgarn B, Padwal R, Larochelle P, Mahon JL, Lewanczuck RZ, et al. The 2007 Canadian Hypertension Education Program recommendations for the management of hypertension: Part 2−therapy. Can J Cardiol 2007;23:539−50., では,β遮断薬を従来どおり初期治療薬とするとしており, NICE/BHSガイドラインでの位置づけと大きく異なる。
一方,慢性安定狭心症患者では,心筋梗塞の既往の有無にかかわらずβ遮断薬が推奨されている 44)Fox K, Garcia MAA, Ardissino D, Buszman P, Camici PG, Crea F, et al. Guidelines on the management of stable angina pectoris: exective summary. The Task Force on the Management of Stable Angina Pectoris of the European Society of Cardiology. Eur Heart J 2006;27:1341−81., 5)5) Smith SC Jr, Allen J, Blair SN, Bonow RO, Brass LM, Fonarow GC, et al. AHA/ACC Guidelines for secondary prevention for patients with coronary and other atherosclerotic vascular disease; 2006 update. Circulation 2006;113:2363−72.。 また,β遮断薬は心不全では軽症から重症まで有効性が高いとされ,ESC慢性心不全作業部会(2005) 6)6) Swedberg K, Cleland J, Dargie H, Drexler H, Follath F, Komajda M, et al. Guidelines for the diagnosis and treatment of chronic heart failure: executive summary (update 2005). Eur Heart J 2005;26:1115−40. は,全重症度の心不全患者(虚血性,非虚血性を問わず)にはβ遮断薬を利尿薬,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬とともに推奨している。 米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)2005ガイドライン 7)7) Hunt SA, Abraham WT, Chin MH, Feldman AM, Francis GS, Ganiats TG, et al. ACC/AHA 2005 Guideline update for the diagnosis and management of chronic heart failure −summary article. A report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines(Writing Committee to update the 2001 Guideline for the Evaluation and Management of Heart Failure). Circulation 2005;112:1825−52. では,慢性心不全で左室機能異常と診断された場合はただちにβ遮断薬投与を開始するとしている。 欧州心臓病学会・欧州糖尿病学会(ESC−EASD)の糖尿病,心血管疾患に関する作業部会(2007) 8)8) Rydén L, Standl E, Bartnik M, Van den Berghe G, Betteridge J, de Boer MJ, et al. Guidelines on diabetes, pre−diabetes, and cardiovascular diseases: executive summary. The Task Force on Diabetes and Cardiovascular Diseases of the European Society of Cardiology(ESC) and of the European Association for the Study of Diabetes (EASD). Eur Heart J 2007;28:88−136. も,糖尿病・心不全患者にβ遮断薬を推奨している(表1)。
表1 最近の主なガイドラインにおけるβ遮断薬の評価
このように循環器疾患領域におけるβ遮断薬の評価には,疾患ごとに乖離がある。 さらに虚血性心疾患や心不全に対するβ遮断薬の有用性には,薬剤間で差があることも指摘されており, この意味ではβ遮断薬はheterogeneous(不均一)といえる。
本稿では,高血圧から慢性心不全までの大規模介入試験成績から得られているβ遮断薬の効果について概説し, 疾患間にみられる評価の乖離に考察を加え,β遮断薬をクラス・エフェクトとしてとらえて評価することの問題点にも言及する。
primärerの斜視
揺れ動く降圧薬としてのβ遮断薬の評価
1)メタアナリシスからみた評価
最近の高血圧患者における大規模介入試験のメタアナリシスでは,β遮断薬はプラセボと比較して全死亡および心筋梗塞を抑制せず, また,他の降圧薬では38%にも及ぶ脳卒中のリスク低下についても16〜22%に過ぎない 9)9) Bangalore S, Messerli FH, Kostis JB, Pepine CJ. Cardiovascular protection using beta−blockers. J Am Coll Cardiol 2007;50:563−72.。 代表的な7報のβ遮断薬に関するメタアナリシスの概要を表2に示す。
表2 高血圧におけるβ遮断薬に関する大規模介入試験のメタアナリシス
Messerli FHらの高齢者高血圧に関するメタアナリシスでは,β遮断薬の心血管イベント抑制効果は利尿薬より劣っていた。 また,β遮断薬は脳血管イベントを抑制したが,他の降圧薬より抑制効果は低かった。Psaty BMらのネットワーク・メタアナリシスでも, β遮断薬はプラセボと比較してうっ血性心不全,脳卒中,心血管イベント,心血管疾患死,全死亡を抑制したが (冠動脈疾患の抑制は有意ではない),利尿薬と比較すると心血管イベントの抑制効果は劣っていた。これらの成績を根拠として, Messerli FHらは,合併症のない高齢者高血圧患者ではβ遮断薬はもはや適切な一次薬とは考えがたく,またPsaty BMらも, β遮断薬の効果は少量の利尿薬に劣り,合併症のない高血圧患者ではβ遮断薬は二次薬とすべきであると述べている。
Carlberg Bらは,アンジオテンシン II受容体拮抗薬(ARB)とβ遮断薬アテノロールを比較したLIFE (Losartan Intervention for Endpoint Reduction in Hypertension)試験を含むメタアナリシスにおいて, アテノロール群はプラセボ群と比較して脳卒中の抑制傾向を示すが,他の降圧薬より死亡のリスクが高く,脳卒中が高頻度であったことから, アテノロールは標準的な降圧薬として使用されてきたが,一次薬としての妥当性に疑問を呈した。
Lindholm LHらによるβ遮断薬に関する代表的なメタアナリシスでは,Carberg Bらの成績に新たにASCOT−BPLA(Anglo−Scandinavian Cardiac Outcomes Trial−Blood Pressure Lowering Arm)などの成績を加え検討した(図1)。 他の降圧薬群と比較したβ遮断薬群の脳卒中の相対リスクは16%高く,心筋梗塞および全死亡の相対リスクは両治療薬群間で差はなかった。 なお,β遮断薬群とプラセボ群の比較では,β遮断薬群は脳卒中を19%抑制したが,心筋梗塞(−7%)や全死亡(−5%)は抑制しなかった。 この報告は他のメタアナリシスの成績と共通し,一次薬としてのβ遮断薬は,他の降圧薬と比較して脳卒中のリスクが高いことを示した。 大規模介入試験にて対照薬として使用頻度の高いアテノロールを単独で解析しても,同様の成績であった。 アテノロール以外のβ遮断薬については,検討された試験数が少ないため評価の根拠は十分ではないが, これらの成績をアテノロールのみに限定する理由はないとLindholm LHらは主張している。
図1 β遮断薬および他の降圧薬の心血管イベント抑制効果の比較
―介入試験のメタアナリシス
β遮断薬群51693例,他の降圧薬群53882例
(Lindholm LH, et al. Lancet 2005; 366:1545−53.より改変引用)
Bradley HAらの報告でも,β遮断薬は脳卒中を抑制するものの,その抑制効果はCa拮抗薬やACE阻害薬に劣り, 心血管イベント抑制効果もCa拮抗薬より低かった。
これらのメタアナリシスの結果を受け,現在,β遮断薬を一次薬より除外すべきとの主張が勢いを増している。 Bangalore S 9)9) Bangalore S, Messerli FH, Kostis JB, Pepine CJ. Cardiovascular protection using beta−blockers. J Am Coll Cardiol 2007;50:563−72.は,これらの評価に基づいて, 高血圧の病態別にみたβ遮断薬の評価を模式的に示している (図2)。
図2 高血圧の病態によるβ遮断薬の推奨度
(Bangalore S, et al. J Am Coll Cardiol 2007;50: 563−72.)
一方,最近のKahn Nらのメタアナリシスでは,β遮断薬の効果を年齢群別に検討している。 その結果,60歳超の高齢者高血圧ではβ遮断薬の評価は従来のメタアナリシスと共通するが, 60歳未満の非高齢者高血圧ではβ遮断薬の心血管イベント抑制効果はプラセボより大きく, 他の降圧薬と比較しても差がなかったため,効果は高血圧患者の年齢により異なると報告している(図3)。
にきび治療、高輝度光科学americanl
図3 高血圧患者におけるβ遮断薬の複合アウトカム
(死亡,脳卒中または心筋梗塞)に及ぼす効果(他の降圧薬との対比)
(Kahn N, et al. Can Med Assoc J 2006;174:1737−42.)
2)大規模介入試験の評価における問題点
高血圧患者の心血管イベント抑制には降圧がもっとも重要である。 Staessen JAらが2003年に報告した,降圧薬間の心血管イベント抑制効果を比較した15報の試験(高血圧患者120574例)のメタアナリシスをみると, 異なる降圧薬群間の心血管イベントの差は,群間の降圧効果より求めた成績と一致した 10)10) Staessen JA, Wang J−G, Thijs L. Cardiovascular prevention and blood pressure reduction: a quantitative overview updated until 1 March 2003. J Hypertens 2003; 21:1055−76.。 同様に降圧薬間および降圧薬とプラセボ間の心血管イベント抑制効果を比較した無作為化対照試験29報の試験(162341例)のメタアナリシスでも, 血圧低下が大きいほど心血管イベントの発生率が低く,心不全を除外すれば,降圧薬による血圧低下はリスクの低下と直接的に相関した[BPLT(Blood Pressure Lowering Treatment) Trialists' Collaboration] 11)11) Blood Pressure Lowering Treatment Trialists' Collaboration: Effects of different blood−pressure−lowering regimens on major cardiovascular events: results of prospectively−designed overviews of randomized trials. Lancet 2003;362: 1527−35.。
β遮断薬に関する高血圧の大規模介入試験をみると,ASCOT−BPLA試験,LIFE試験,MRC(Medical Research Council Study)試験,高齢者高血圧患者におけるMRC−Old(Medical Research Council Trial of Treatment of Hypertension in Older Adults)試験では,β遮断薬の脳卒中抑制が比較薬より低く,INVEST(International Verapamil−Trandolapril Study)試験,HAPPHY(Heart Attack Primary Prevention in Hypertension Trial)試験,UKPDS 39(UK Prospective Diabetes Study 39)試験ではβ遮断薬の心血管イベント抑制効果に比較薬との差はなく, MAPHY(Metoprolol Atherosclerosis Prevention in Hypertensives Study)試験ではβ遮断薬の心血管イベント抑制効果が利尿薬より大きい。 なお,観察研究ではあるが,最近,カナダの高血圧患者19249例を平均2.3年間追跡した結果, アテノロール,ACE阻害薬,サイアザイド系利尿薬,Ca拮抗薬のイベント(心筋梗塞,不安定狭心症,脳卒中,死亡)発生率は それぞれ2.3%,3.6%,2.9%,3.9%と, 各降圧薬間に差はなかったと報告されている 12)12) Blackburn DF, Lamb DA, Eurich DT, Johnson JA, Wilson TW, Dobson RT, et al. Atenolol as initial antihypertensive therapy: an observational study comparing first−line agents. J Hypertens 2007;25:1499−505.。
神経解剖学脊髄の痛みシステム
Lindholm LHらのメタアナリシスではβ遮断薬の心血管イベント抑制効果は他の降圧薬に劣るとされたが,統合された介入試験を個別にみると, ASCOT−BPLA試験ではCa拮抗薬群の一次エンドポイント(非致死性心筋梗塞,致死性冠動脈疾患)は β遮断薬群より−10%の低下傾向を認め,同様に脳卒中は−23%, 心血管イベントは−16%,全死亡は−11%の抑制が認められている 13)13) Dahlof B, Sever PS, Poulter NR, Wedel H, Beevers G, Caulfield M, et al. Prevention of cardiovascular events with an antihypertensive regimen of amlodipine adding perindopril as required versus atenolol adding bendroflumethiazide as required, in the Anglo−Scandinavian Cardiac Outcomes Trial−Blood Pressure Lowering Arm(ASCOT−BPLA): a multicentre randomized controlled trial. Lancet 2005;366:895−906.。 ただし,β遮断薬群の治療下の収縮期血圧(SBP)はCa拮抗薬より2.7mmHg高値を示していた。Staessen JAらは,SBPの差から予測される降圧薬間の心血管イベントの差を考慮すると, ASCOT−BPLA試験におけるCa拮抗薬の優位性は血圧差に基づく予測の範囲内であると述べている 14)14) Staessen JA, Birkenhager WH. Evidence that new antihypertensives are superior to older drugs. Lanct 2005;366:869−70.。 LIFE試験でも,ARB群の主要複合エンドポイント(心血管疾患死,脳卒中,心筋梗塞) および脳卒中のリスクはβ遮断薬群と比較して低かった。 致死性・非致死性心筋梗塞のリスクは両群間に差はなかった 15)15) Dahlof B, Devereux RB, Kjeldsen SE, Julius S, Beevers G, de Faire U, et al. Cardiovascular morbidity and mortality in the Losartan Intervention For Endpoint reduction in hypertension study (LIFE): a randomized trial against atenolol. Lancet 2002;359:995−1003.。 しかし,LIFE試験全体では治療下のSBPに1mmHgの差があり,糖尿病合併例のみの解析では3mmHgの差があった。 同試験における両治療薬群間の心血管イベントの差は,上述のASCOT−BPLA試験と同様にStaessen JAらの メタアナリシスに基づく予測結果で説明が可能である。すなわち,異なる降圧薬群間の心血管イベント発生率の差は, 治療下のSBPの差で説明できるとの見解を発表している 16)16) Staessen JA, Wang J−G, Birkenhager WH. Outcome beyond blood pressure control? Eur Heart J 2003;24:504−14. 。このため,ASCOT−BPLA試験およびLIFE試験で示された 「β遮断薬の心血管イベント抑制効果は新規降圧薬より劣る」とする成績は,降圧効果の差による可能性を否定できない。
降圧薬の心血管イベント抑制効果はおもに降圧効果に依存するが,各薬剤の降圧効果は対象者の年齢により相違する。 多くの大規模介入試験の対象者には高齢者の占める割合が高い。高齢者収縮期高血圧患者74例(65〜86歳)を対象に, プラセボ,4種の降圧薬(ACE阻害薬,Ca拮抗薬,β遮断薬,利尿薬)をクロスオーバー法で各2ヵ月間服用させると, SBPの低下作用は,ACE阻害薬とβ遮断薬はCa拮抗薬,利尿薬と比較して軽度であった 17)17) Morgan TO, Anderson AIE, MacInnis RJ. ACE inhibitors, beta−blockers, calcium blockers, and diuretics for the control of systolic hypertension. Am J Hypertens 2001;14:241−7.。 一方,未治療本態性高血圧34例(18〜55歳,平均47歳)に5種類の降圧薬をクロスオーバー法にて6週間交互に服用させると, 5種類の降圧薬はすべて有意な降圧を示したが,降圧度がもっとも大きいのはβ遮断薬であり, その次にCa拮抗薬,ACE阻害薬,さらにその次に利尿薬,α遮断薬が続いた 18)18) Deary AJ, Schumann AL, Murfet H, Haydock SF, Foo RS−Y, Brown MJ. Double−blind, placebo−controlled crossover comparison of five classes of antihypertensive drugs. J Hypertens 2002;20:771−7.。 β遮断薬の心血管イベント抑制効果が低いとする評価には,介入試験の対象者に高齢者の比率が高く,年齢要素が部分的に影響したものと推測される。
β遮断薬とプラセボあるいは他の降圧薬の心血管イベントの発生率を比較した試験では, それぞれの併用薬がもたらす影響が大きいと考えられる。IPPPSH(International Prospective Primary Prevention Study in Hypertension)試験では,合併症のない高血圧患者6357例をβ遮断薬オクスプレノロール群と プラセボ群に割付け3〜5年間追跡したが, 両群の突然死,心筋梗塞,脳卒中の発症リスクに有意差はなかった 19)19) The IPPPSH Collaborative Group: Cardiovascular risk and risk factors in a randomized trial of treatment based on the beta−blocker oxprenolol: the International Prospective Primary Prevention Study in Hypertension (IPPPSH). J Hypertens 1985;3:379−92.。しかし,プラセボ群の85%がβ遮断薬以外の降圧薬を服用していた。 すなわち,実質的にはβ遮断薬と非β遮断薬を比較したといえ,IPPPSH試験ではβ遮断薬の有効性を明確にしえなかった可能性がある。
またASCOT−BPLA試験のCa拮抗薬群では,初期治療薬であるCa拮抗薬で降圧目標に達しない場合, ACE阻害薬を追加し,同様にβ遮断薬群では利尿薬を追加している 13)13) Dahlof B, Sever PS, Poulter NR, Wedel H, Beevers G, Caulfield M, et al. Prevention of cardiovascular events with an antihypertensive regimen of amlodipine adding perindopril as required versus atenolol adding bendroflumethiazide as required, in the Anglo−Scandinavian Cardiac Outcomes Trial−Blood Pressure Lowering Arm(ASCOT−BPLA): a multicentre randomized controlled trial. Lancet 2005;366:895−906. (2007 ESH−ESC 2)2) Mancia G, De Baker G, Dominiczak A, Cifkova R, Fagard R, Germano G, et al. Guidelines for the management of arterial hypertension. The Task Force for the Management of Arterial Hypertension of the European Society of Hypertension (ESH) and of the European Society of Cardiology (ESC). J Hypertens 2007;25:1105−87. では, β遮断薬と利尿薬の併用は代謝異常をきたすため,メタボリックシンドロームや糖尿病発症のリスクが高い症例では避けるべきであるとしている)。 したがってASCOT−BPLA試験を初期治療薬であるCa拮抗薬とβ遮断薬とを比較した成績と単純にみなせない。
初期の介入試験ではさらに検討すべき課題が多い。MRC試験とMRC−Old試験ではともに, β遮断薬の心血管イベント抑制効果が利尿薬より劣っていた。 MRC試験は,軽症高血圧患者17354例を利尿薬群,β遮断薬プロプラノロール群, プラセボ群に割付け平均5.5年間追跡した試験である。 利尿薬群の脳卒中リスク低下はβ遮断薬群より大であった。 冠動脈疾患および全死亡には両群間に差はなかった 20)20) Medical Research Council Working Party. MRC trial of treatment of mild hypertension: principal results. Br Med J(Clin Res Ed) 1985;291:97−104.。 なお,利尿薬群の治療中血圧はβ遮断薬群より低下していた。 5.5年間後の両割付け薬の継続服用率は28〜34%と低かった。一方,MRC−Old試験は, 高齢者高血圧患者4396例を利尿薬群,β遮断薬アテノロール群, プラセボ群に割付け平均5.8年間追跡した試験である。利尿薬群の脳卒中,冠動脈イベント,心血管イベント,心血管疾患死は, プラセボ群に比しそれぞれ31%,44%,35%,29%低下した。β遮断薬群の脳卒中,冠動脈イベント,心血管イベントはそれぞれ18%,3%,4%低下したが有意ではなかった。 β遮断薬群の治療期間前半の血圧は利尿薬群より高く,3群の5.5年間後の割付け薬の継続服用率は52〜37%であった 21)21) MRC Working Party. Medical Research Council trial of treatment of hypertension in older adults: principal results. BMJ 1992;304:405−12.。 両試験ともβ遮断薬群の血圧は利尿薬群より高い傾向を示し,継続服用率が低いことから,結論にどのようなバイアスも入りうることが推測される。
なお,MRC試験では降圧目標に達しない場合,利尿薬群はメチルドパを追加し, β遮断薬群ではグアネチジン(後にはメチルドパ)を追加するとされ, 現行の治療とは乖離している。MRC−Old試験では降圧目標に大きく達しない場合,利尿薬群はβ遮断薬を追加し, β遮断薬群は利尿薬を追加する試験計画であった(併用頻度はそれぞれ11%,16%であった)。
Messerli FHらの高齢者高血圧患者に関するメタアナリシスで採用されたβ遮断薬の介入試験はMRC−Old試験とHEP(Hypertension in Elderly Patients)試験の2報である。このうち,MRC−Old試験の症例が2/3を占め, 成績はおもにMRC−Old試験の成績が反映されたものと考えられる。 なお,HEP試験ではアテノロール群の致死性・非致死性脳卒中のリスクは無治療群より有意に低く, 心合併症による死亡のリスクは低下傾向を認めたが有意ではなかった 22)22) Coope J, Warrender TS. Randomized trial of
treatment of hypertension in the elderly patients in primary care. Br Med J(Clin Res Ed) 1986;293: 1145−51.。Psaty BMらが実施した, 6種の降圧薬に関する42報の試験成績をまとめたネットワーク・メタアナリシスにおいて, β遮断薬に関する根拠となったのはMRC−Old試験のみであった。多くのメタアナリシスでは, β遮断薬の有効性は比較薬に劣るとされたが,その根拠とされた介入試験には検討課題が多い。
メタアナリシスは多くの治療ガイドラインで根拠として取り上げられているが, その詳細が批判されることは比較的少なく,結論のみが一般に受け入れられる傾向にある。2007 ESH−ESC 2)2) Mancia G, De Baker G, Dominiczak A, Cifkova R, Fagard R, Germano G, et al. Guidelines for the management of arterial hypertension. The Task Force for the Management of Arterial Hypertension of the European Society of Hypertension (ESH) and of the European Society of Cardiology (ESC). J Hypertens 2007;25:1105−87.は治療の有用性はおもに降圧効果に依存し,NICE/BHS 1)1)National Collaborating Centre for Chronic Conditions: Hypertension: management of hypertension in adults in primary care: partial update. London: Royal College of Physicians;2006. p.1−94.の結論に対しては注意深く,同時に批判的に受けとめるべきであると述べ,同ガイドラインとは対照的に, β遮断薬を利尿薬などとともに有効性が証明された初期治療薬と位置づけている。とくに狭心症,心筋梗塞後,心不全,頻脈性不整脈, 緑内障,妊娠を合併している高血圧患者において,β遮断薬は他の降圧薬より有用性が高いとして評価している。
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